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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1419号 判決 1961年8月18日

理由

本訴請求原因事実については、当事者間に争がない。

証拠を綜合すると、「被控訴人が昭和三二年三月初頃訴外竹林茂に対し訴外六王機械製作所振出の額面五〇〇、〇〇〇円満期同年六月一〇日の約束手形に裏書した上割引の依頼をしたところ、右竹林茂が更に、同月五日頃知合いの訴外瀬戸川巍に対し右約束手形を交付して割引依頼をした。しかるに、右瀬戸川が竹林からの依頼の趣旨に反して右約束手形を以て当時繊維製品の販売を業としていた控訴人から繊維品を買受けようと考え、その頃控訴人に対しその旨申込んで右約束手形を預けたところ、控訴人が右瀬戸川の関係している訴外大興物産株式会社に対し取引上の債権金四三六、五四〇円を有していたのでそれの引当とするつもりでこれを受けとつた。一方、被控訴人は竹林に手形割引を依頼したものの、他で金策のめどがついたので、同月六日竹林に対し割引依頼を撤回するとともに、右約束手形の返還を求め、竹林が前記瀬戸川とともに同月七日控訴人方に赴き、控訴人に対し右約束手形の返還を求めたが、控訴人は、右手形は銀行に割引依頼後であるといつてこれを拒否した。その後、右約束手形の満期前に振出人である訴外株式会社六王機械製作所が倒産したため、控訴人は、右手形の裏書人である被控訴人から手形金を回収しようと企て、同年五月一〇日頃、被控訴人を大阪市淀屋橋附近政経ビル内の一室に呼出し、右約束手形金の支払又は同額の約束手形の振出を求めた。その際、被控訴人は控訴人に対し、前記手形は訴外竹林に割引のあつせんを依頼したもので割引金の交付を受けていないし、満期未到来であることを理由に、右控訴人の要求を拒絶したにかかわらず、同所には、大興物産株式会社大阪支店長の中村利雄のほか、直接本件取引に関係のない訴外森某が立会い、被控訴人に対し控訴人や右両名がそれぞれ剣道、柔道の有段者であることをほのめかし、又被控訴人が約束手形の振出を拒絶すれば控訴人らが被控訴人の店頭で大きな声を出さねばならなくなる等申し向けなどして被控訴人を畏怖させたため、その結果やむなく被控訴人が一両日の後に本件約束手形四通を控訴人に対し振出交付した。」という事実を認めることができる。

右の事実関係によつて見れば、本件約束手形四通は、控訴人の強迫にもとづいて被控訴人が振出したものということができるから、被控訴人が本訴においてその振出行為を取消した以上、右振出はいずれも無効であり、被控訴人が控訴人に対しこれが支払の義務ないことは当然で、控訴人の請求は理由がない。

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